パワハラ防止法は民事的効力を持つ？判例から読み解く企業の責任とあなたのキャリアを守る方法

この記事では、2020年6月に施行されたパワハラ防止法（正式名称：労働施策総合推進法）が、具体的にどのような法的効力を持つのか、そして、企業がパワハラに対してどのように対応すべきか、働く私たちが自身の権利を守るために何を知っておくべきかについて解説します。パワハラ問題は、私たちのキャリアだけでなく、心身の健康にも深刻な影響を及ぼす可能性があります。この記事を通じて、パワハラに関する法的知識を深め、自身のキャリアを守るための具体的な対策を学びましょう。

令和2年6月から、大企業はパワハラの防止法が施行されているとのことですが、この法律は民事的効力があるのでしょうか？ 施行から2年経過しているということで、この法律について参考となる判断を下した判例を紹介してください。 社労士、弁護士等の労働法の専門家の回答をお待ちしております。

パワハラ防止法の基本：法的効力と企業の義務

パワハラ防止法は、正式には「労働施策総合推進法」の一部を改正したもので、パワハラ対策を企業に義務付けるものです。この法律は、パワハラを「職場において、優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、労働者の就業環境が害されること」と定義しています。

この法律の主な目的は、パワハラを未然に防ぎ、発生した場合に適切な対応を取ることを企業に義務付けることです。具体的には、以下の3つの義務が課せられています。

• 相談体制の整備： 労働者からの相談に対応するための窓口を設置し、相談しやすい環境を整えること。
• 事実確認と対応： パワハラに関する相談があった場合、事実関係を迅速かつ適切に確認し、必要な措置を講じること。
• 再発防止策： パワハラが発生した場合、再発防止のための対策を講じること。

しかし、パワハラ防止法自体には、直接的な罰則規定はありません。企業がこれらの義務を怠ったとしても、直ちに罰金が科せられるわけではありません。しかし、この点が、この法律の法的効力について誤解を生む原因となっています。

パワハラ防止法の民事的効力：判例から読み解く

パワハラ防止法自体に直接的な罰則規定がないとしても、この法律は民事上の責任を問うための重要な根拠となり得ます。なぜなら、パワハラ防止法が定める企業の義務は、労働契約法や民法上の安全配慮義務と密接に関連しているからです。

安全配慮義務とは： 企業は、労働者の安全と健康に配慮する義務を負っています。これは、労働者が安全に働ける環境を提供するだけでなく、心身の健康を害するような行為（パワハラなど）から労働者を保護する義務も含まれます。

パワハラ防止法が施行されたことにより、企業はパワハラ対策を講じることが法的に義務付けられました。もし企業がこの義務を怠り、その結果、労働者が精神的苦痛や心身の健康被害を受けた場合、企業は民事上の損害賠償責任を負う可能性があります。これは、パワハラ防止法が、間接的に民事的な効力を持つことを意味します。

以下に、パワハラに関する判例をいくつか紹介し、企業と個人の法的責任について具体的に見ていきましょう。

判例1：企業の安全配慮義務違反と損害賠償責任

事例： 従業員Aは、上司Bから執拗なパワハラを受け、精神疾患を発症し、休職を余儀なくされた。会社は、Aからの相談に対して適切な対応を取らず、Bへの注意喚起も不十分であった。

判決： 裁判所は、会社が安全配慮義務を怠ったとして、Aに対して損害賠償を命じました。裁判所は、会社がパワハラを放置し、適切な対応を取らなかったことが、Aの精神疾患の発症につながったと判断しました。

ポイント： この判例は、企業がパワハラに関する相談を受けた場合、迅速かつ適切な対応を取る義務があることを示しています。具体的には、事実関係の調査、加害者への注意喚起、被害者のケアなど、必要な措置を講じる必要があります。また、パワハラを放置することは、企業の安全配慮義務違反となり、損害賠償責任を負う可能性があることを示唆しています。

判例2：パワハラと不法行為責任

事例： 従業員Cは、同僚Dから人格を否定するような暴言や、業務上の不当な指示を受け、精神的苦痛を感じ、退職を余儀なくされた。

判決： 裁判所は、Dの行為が不法行為に該当すると判断し、Dに対して損害賠償を命じました。また、会社もDの行為を認識していたにもかかわらず、適切な対応を取らなかったとして、連帯責任を負うと判断しました。

ポイント： この判例は、パワハラを行った個人だけでなく、企業も責任を問われる可能性があることを示しています。企業は、パワハラを放置したり、適切な対応を取らなかった場合、加害者と連帯して損害賠償責任を負う可能性があります。また、パワハラは、個人の不法行為として、刑事責任を問われる可能性もあります。

判例3：パワハラと解雇の有効性

事例： 従業員Eは、上司Fからパワハラを受け、精神的に不安定になり、業務に支障をきたすようになった。会社は、Eを解雇したが、その解雇理由にパワハラが影響していた。

判決： 裁判所は、解雇理由が不当であるとして、解雇を無効としました。裁判所は、会社がパワハラを放置し、適切な対応を取らなかったことが、Eの精神的苦痛を増大させ、解雇に至る原因となったと判断しました。

ポイント： この判例は、企業がパワハラ問題を放置した場合、解雇が無効となる可能性があることを示しています。企業は、パワハラを未然に防ぎ、発生した場合は適切な対応を取ることで、従業員の保護と、自社の法的リスクを軽減する必要があります。

パワハラから身を守るために：あなたのキャリアを守るための具体的な対策

パワハラは、あなたのキャリアだけでなく、心身の健康にも深刻な影響を及ぼす可能性があります。ここでは、パワハラから身を守り、自身のキャリアを守るための具体的な対策を紹介します。

• 証拠の収集： パワハラの証拠を収集することが重要です。具体的には、以下のようなものを記録しておきましょう。
  • パワハラの内容（言動、行動など）
  • 日時、場所
  • 加害者、目撃者
  • 録音、録画（可能であれば）
  • メール、チャットの記録
• 相談窓口の活用： 会社に相談窓口がある場合は、積極的に活用しましょう。相談内容や対応状況を記録しておくと、後々の証拠として役立ちます。
• 弁護士への相談： パワハラが深刻な場合は、弁護士に相談することも検討しましょう。弁護士は、法的アドバイスを提供し、あなたの権利を守るためのサポートをしてくれます。
• 専門機関への相談： 労働局や労働基準監督署などの専門機関も、パワハラに関する相談を受け付けています。これらの機関は、企業への指導や、紛争解決のためのあっせんなどを行ってくれます。
• 休職や退職の検討： パワハラが原因で心身に不調をきたしている場合は、休職や退職も選択肢として検討しましょう。無理に働き続けることは、事態を悪化させる可能性があります。
• メンタルヘルスケア： パワハラによる精神的な負担を軽減するために、メンタルヘルスケアも重要です。専門家のカウンセリングを受けたり、リラックスできる時間を作ったりするなど、自分なりの方法で心のケアを行いましょう。

企業が取り組むべきパワハラ対策：健全な職場環境の構築

企業は、パワハラを未然に防ぎ、発生した場合に適切に対応するために、以下の対策を講じる必要があります。

• パワハラ防止規程の策定： パワハラを具体的に定義し、禁止事項や、違反した場合の懲戒処分などを明記した規程を策定しましょう。
• 相談窓口の設置： 労働者からの相談に対応するための窓口を設置し、相談しやすい環境を整えましょう。相談窓口の担当者は、相談者のプライバシーに配慮し、中立的な立場で対応する必要があります。
• 研修の実施： パワハラに関する研修を定期的に実施し、労働者と管理者の意識改革を図りましょう。研修では、パワハラの定義、具体例、対応方法などを学びます。
• 事実確認と対応： パワハラに関する相談があった場合、事実関係を迅速かつ適切に確認し、必要な措置を講じましょう。調査結果に基づいて、加害者への注意喚起、配置転換、懲戒処分などの対応を行います。
• 再発防止策： パワハラが発生した場合、再発防止のための対策を講じましょう。具体的には、原因の究明、改善策の実施、効果測定などを行います。
• 情報公開： パワハラに関する情報を適切に公開し、透明性を確保しましょう。例えば、パワハラ防止規程を社内公開したり、相談窓口の連絡先を周知したりします。
• 労働者の意見聴取： 労働者の意見を積極的に聞き、職場環境の改善に役立てましょう。定期的なアンケート調査や、意見交換会などを実施します。

まとめ：パワハラ防止法とあなたのキャリア

パワハラ防止法は、企業に対してパワハラ対策を義務付ける法律であり、直接的な罰則規定はありません。しかし、この法律は、民事上の責任を問うための重要な根拠となり得ます。企業がパワハラ対策を怠り、その結果、労働者が精神的苦痛や心身の健康被害を受けた場合、企業は民事上の損害賠償責任を負う可能性があります。

パワハラから身を守るためには、証拠の収集、相談窓口の活用、弁護士への相談、専門機関への相談、休職や退職の検討、メンタルヘルスケアなど、様々な対策を講じることが重要です。また、企業は、パワハラ防止規程の策定、相談窓口の設置、研修の実施、事実確認と対応、再発防止策、情報公開、労働者の意見聴取など、様々な対策を講じることで、健全な職場環境を構築し、パワハラを未然に防ぐ必要があります。

あなたのキャリアを守るために、パワハラに関する法的知識を深め、自身の権利を守るための具体的な対策を講じましょう。そして、もしあなたがパワハラに悩んでいるなら、一人で抱え込まず、信頼できる人に相談してください。あなたのキャリアは、あなた自身で守ることができます。

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