終末期の医療とキャリア：介護施設での選択肢を考える

この記事では、介護施設に入所されている方の終末期医療に関するご相談にお答えします。ご家族が直面する、鼻腔栄養、胃ろう、静脈注射といった選択肢について、それぞれのメリットとデメリットを比較検討し、ご本人の意思を尊重しながら、より良い選択をするための情報を提供します。同時に、介護業界で働く方々が、終末期医療について深く理解し、より質の高いケアを提供できるよう、キャリア支援の視点から情報を提供します。

90歳の認知症の母の事ですが、痰が詰まったり嚥下障害になって老人ホームから医療サービスを受けられる介護施設に移りましたが、担当の先生から「鼻腔栄養にするか胃ろうにするか静脈注射で栄養を入れるか考えておいてほしい」と言われ迷っています。それというのも亡き父が生前、胃ろうにした為に口から物が食べられなくなり、本人も付き添いもつらい思いを経験しました。そこでお聞きしたいのですが、鼻腔栄養とか胃ろうにするとかはどこまで拒否できるものなのでしょうか？せめて静脈注射で栄養を補給ていどにすれば本人も自然死に近いかたちで終わることが出来るのではないでしょうか？

ご相談ありがとうございます。ご家族が終末期医療の選択を迫られる状況は、非常に心労が大きいことと思います。特に、過去の経験から特定の医療行為に抵抗を感じることは、当然のことです。今回の記事では、終末期医療における選択肢、それぞれのメリットとデメリット、そしてご本人の意思を尊重するための方法について、詳しく解説していきます。

1. 終末期医療の選択肢：それぞれの特徴

終末期医療における栄養補給の方法には、主に以下の3つの選択肢があります。

• 鼻腔栄養
• 胃ろう
• 静脈栄養

それぞれの特徴を理解し、ご自身の状況に合った選択をするために、詳しく見ていきましょう。

1.1 鼻腔栄養

鼻腔栄養は、鼻からチューブを挿入し、胃まで栄養剤を届ける方法です。比較的侵襲性が低く、一時的な栄養補給が必要な場合に用いられます。しかし、チューブの違和感や、誤嚥のリスクがあるため、長期間の利用には注意が必要です。

メリット:

• 比較的容易に開始できる
• 一時的な栄養補給に適している

デメリット:

• チューブの違和感がある
• 誤嚥のリスクがある
• 長期間の利用には不向き

1.2 胃ろう

胃ろうは、お腹に小さな穴を開け、そこから胃に直接チューブを挿入して栄養を届ける方法です。長期間の栄養補給が必要な場合に用いられます。胃ろうは、鼻腔栄養よりも異物感が少なく、誤嚥のリスクも低減できます。

メリット:

• 長期間の栄養補給が可能
• 誤嚥のリスクが低い
• 鼻腔チューブよりも異物感が少ない

デメリット:

• 手術が必要
• 感染症のリスクがある
• 定期的な交換が必要

1.3 静脈栄養

静脈栄養は、点滴によって栄養を補給する方法です。消化管が機能しない場合や、他の栄養補給方法が難しい場合に用いられます。しかし、感染症のリスクが高く、長期間の利用には注意が必要です。

メリット:

• 消化管を使用しない
• 他の栄養補給方法が難しい場合に有効

デメリット:

• 感染症のリスクが高い
• 長期間の利用には不向き

2. 終末期医療の選択：拒否できる権利と意思決定プロセス

終末期医療の選択は、ご本人の意思が尊重されるべきです。日本には、患者の自己決定権を尊重する考え方があります。これは、医療行為を受けるかどうか、あるいはどのような治療を受けるかを、患者自身が決定できる権利を意味します。

ご本人が意思表示できる場合は、ご本人の意思を最優先に尊重する必要があります。ご本人が意思表示できない場合は、ご家族が代理で意思決定を行うことになります。この場合、ご本人のこれまでの価値観や、過去の言動などを考慮し、ご本人の意思を推測することが重要です。

意思決定プロセス:

1. 情報収集: 医師から、それぞれの選択肢に関する詳細な説明を受け、メリットとデメリットを理解する。
2. 意思確認: ご本人の意思を確認する。意思表示が難しい場合は、ご本人の価値観や希望を推測する。
3. 家族会議: ご家族で話し合い、最善の選択肢を決定する。
4. 医療チームとの連携: 決定した内容を医師に伝え、治療方針を決定する。

3. 終末期医療の選択：ご本人の意思を尊重するために

ご本人の意思を尊重するためには、以下の点に注意しましょう。

• 事前指示書（リビングウィル）の活用: 事前に、どのような医療行為を希望するかを文書で残しておく。
• 意思疎通: ご本人と積極的にコミュニケーションを取り、希望を聞き出す。
• 専門家への相談: 医師や看護師、ソーシャルワーカーなどの専門家に相談し、アドバイスを受ける。

リビングウィルとは:

リビングウィルとは、本人が将来的に意思表示ができなくなった場合に備え、事前にどのような医療やケアを希望するかを記した文書です。リビングウィルを作成しておくことで、ご本人の意思を尊重した治療を受けることができます。

4. 介護施設における終末期ケアの現状と課題

介護施設では、終末期ケアの質を向上させるために、様々な取り組みが行われています。しかし、まだ課題も多く残されています。

現状:

• 看取りケアの体制整備: 医師や看護師、介護職員が連携し、看取りケアを提供できる体制を整えている施設が増えています。
• 緩和ケアの導入: 痛みの緩和や精神的なケアを提供する緩和ケアを導入している施設もあります。
• アドバンス・ケア・プランニング（ACP）の推進: 本人の意思を尊重し、より良い意思決定を支援するためのACP（人生会議）を推進しています。

課題:

• 医療連携の強化: 医療機関との連携を強化し、より質の高い医療を提供する必要があります。
• 人材育成: 終末期ケアに関する知識やスキルを持つ人材を育成する必要があります。
• 情報共有: ご家族や入居者との情報共有を密にし、意思決定を支援する必要があります。

5. 介護職員のキャリアアップと終末期ケア

介護業界で働く方々にとって、終末期ケアに関する知識やスキルを習得することは、キャリアアップにもつながります。終末期ケアに関する専門知識を持つことで、より質の高いケアを提供できるようになり、利用者やご家族からの信頼も得やすくなります。

キャリアアップの例:

• 専門職へのステップアップ: 介護福祉士、ケアマネージャー、看護師などの資格を取得し、専門性を高める。
• リーダーシップの発揮: チームリーダーや主任などの役職に就き、チームをまとめ、終末期ケアの質を向上させる。
• 研修への参加: 終末期ケアに関する研修に参加し、知識やスキルを習得する。

終末期ケアに関する研修の例:

• 看取りケアに関する研修
• 緩和ケアに関する研修
• アドバンス・ケア・プランニング（ACP）に関する研修

これらの研修を通じて、終末期ケアに関する専門知識を深め、より質の高いケアを提供できるようになります。

6. 成功事例：終末期ケアにおける家族の思いと施設の取り組み

ここでは、終末期ケアに関する成功事例を紹介します。これらの事例から、ご本人の意思を尊重し、ご家族の思いに寄り添うケアの重要性を学びましょう。

事例1:

Aさんは、認知症の母親が介護施設に入所していました。母親は、以前から「最期は自宅で家族に見守られながら過ごしたい」という希望を持っていました。施設では、Aさんの希望を尊重し、医師や看護師と連携して、母親の自宅への一時帰宅を支援しました。自宅では、Aさんや家族が母親の介護を行い、施設からは訪問看護師が定期的に訪問し、医療的なサポートを提供しました。母親は、最期まで家族に囲まれ、安らかな最期を迎えることができました。

事例2:

Bさんは、胃ろうをしていた父親が介護施設に入所していました。父親は、口から食べることへの強い願望を持っていました。施設では、言語聴覚士による嚥下訓練や、食事形態の工夫などを行い、父親が少しでも口から食べられるようにサポートしました。その結果、父親は、最期まで口から食事を楽しむことができ、笑顔で過ごすことができました。

7. まとめ：終末期医療の選択と介護施設でのサポート

終末期医療の選択は、ご本人とご家族にとって非常に重要な問題です。それぞれの選択肢のメリットとデメリットを理解し、ご本人の意思を尊重しながら、最善の選択をすることが大切です。介護施設では、看取りケアや緩和ケア、ACPなど、様々な取り組みを通じて、終末期ケアの質を向上させています。

介護業界で働く方々は、終末期ケアに関する知識やスキルを習得し、より質の高いケアを提供することで、利用者やご家族を支えることができます。ご本人の意思を尊重し、ご家族の思いに寄り添うケアを提供することで、より良い終末期を過ごすことができるでしょう。

最後に、ご相談者様の状況が少しでも良い方向に向かうことを心から願っております。今回の情報が、ご家族の意思決定の一助となれば幸いです。

参考資料:

• 厚生労働省 – 人生の最終段階における医療・ケアに関する意識調査
• 日本尊厳死協会
• 日本緩和医療学会

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