認知症の親の預貯金はどうする？手続きと注意点【専門家が解説】

この記事では、認知症の親御さんの預貯金に関する手続きについて、具体的な方法と注意点を解説します。親の介護と仕事の両立で忙しいあなたも、この記事を読めば、必要な手続きをスムーズに進められるようになります。専門家の視点から、法的側面や親御さんの権利を守るためのポイントも詳しく解説します。

母が老人ホームに入りました。母の銀行預金や郵便貯金はどうしたら下ろせますか。カードはありません。なお母は少し認知気味です。

ご家族が老人ホームに入所された際、親御さんの預貯金に関する手続きは、非常に重要な問題です。特に、認知症の症状が見られる場合は、ご本人の意思確認が難しくなるため、適切な対応が求められます。ここでは、預貯金を引き出すための具体的な手続きと、注意すべきポイントを、わかりやすく解説します。介護と仕事の両立で忙しいあなたも、この記事を参考に、スムーズに手続きを進めてください。

1. 預貯金を引き出すための基本的な選択肢

認知症の親御さんの預貯金を引き出す方法は、いくつかの選択肢があります。それぞれの方法には、メリットとデメリットがあり、状況に応じて最適な方法を選ぶ必要があります。

• 成年後見制度の利用: 家庭裁判所が選任した成年後見人が、親御さんの財産管理を行います。
• 任意代理契約の締結: 親御さんが判断能力があるうちに、財産管理を任せる人を決めておく方法です。
• 親御さんの判断能力に応じた対応: 認知症の程度によっては、親御さん自身で手続きができる場合があります。

2. 成年後見制度の利用

成年後見制度は、認知症などによって判断能力が低下した方の財産管理や身上監護を支援する制度です。この制度を利用することで、親御さんの預貯金を引き出すことが可能になります。

2-1. 成年後見制度の種類

成年後見制度には、大きく分けて「法定後見」と「任意後見」の2つの種類があります。

• 法定後見: 判断能力がすでに低下している場合に、家庭裁判所が後見人等を選任する制度です。
  • 後見: 判断能力が全くない場合に適用されます。
  • 保佐: 判断能力が著しく低下している場合に適用されます。
  • 補助: 判断能力が不十分な場合に適用されます。
• 任意後見: 判断能力があるうちに、将来のために財産管理を任せる人（任意後見人）を決めておく制度です。

2-2. 法定後見の手続きの流れ

法定後見の手続きは、以下の流れで進みます。

1. 申立て: 親族などが、親御さんの住所地の家庭裁判所に申立てを行います。申立てには、申立書、戸籍謄本、診断書などの書類が必要です。
2. 調査: 家庭裁判所は、親御さんの状況や財産状況などを調査します。
3. 審判: 家庭裁判所は、親御さんの判断能力を判断し、後見人等を選任します。
4. 後見開始: 後見人等が選任された後、後見が開始され、財産管理が始まります。

2-3. 成年後見制度の注意点

成年後見制度を利用する際には、以下の点に注意が必要です。

• 手続きに時間がかかる: 申立てから後見開始まで、数ヶ月かかる場合があります。
• 費用がかかる: 申立て費用や、後見人への報酬が発生します。
• 後見人の役割: 後見人は、親御さんの財産を適切に管理し、身上監護を行います。

3. 任意代理契約の締結

任意代理契約は、親御さんが判断能力があるうちに、将来の財産管理を任せる人を決めておく方法です。この方法を利用することで、スムーズに預貯金を引き出すことが可能になります。

3-1. 任意代理契約のメリット

任意代理契約には、以下のようなメリットがあります。

• 手続きが比較的簡単: 契約書を作成し、公証役場で認証を受けるだけで済みます。
• 柔軟な対応が可能: 契約内容を自由に設定できるため、親御さんの状況に合わせた財産管理ができます。
• 親族間のトラブルを回避: 契約内容を明確にしておくことで、親族間のトラブルを未然に防ぐことができます。

3-2. 任意代理契約の注意点

任意代理契約を締結する際には、以下の点に注意が必要です。

• 親御さんの判断能力が必要: 契約締結時に、親御さんに判断能力があることが前提となります。
• 契約内容の明確化: 契約内容を具体的に記載し、誤解が生じないようにする必要があります。
• 信頼できる人を選ぶ: 財産管理を任せる人は、信頼できる人を選ぶことが重要です。

4. 親御さんの判断能力に応じた対応

親御さんの認知症の程度によっては、ご本人で預貯金の手続きができる場合があります。しかし、判断能力が低下している場合は、詐欺などのリスクも高まるため、注意が必要です。

4-1. 親御さん自身での手続きが可能な場合

認知症の初期段階など、親御さんに一定の判断能力がある場合は、ご本人で預貯金を引き出すことが可能です。この場合、以下の点に注意しましょう。

• 本人確認書類: 運転免許証や健康保険証などの本人確認書類が必要です。
• 通帳と印鑑: 預貯金を引き出すためには、通帳と印鑑が必要です。
• 金融機関への相談: 金融機関に相談し、手続き方法を確認しましょう。

4-2. 詐欺などのリスクへの対策

認知症の親御さんが、詐欺などの被害に遭うリスクを減らすためには、以下の対策が有効です。

• 定期的な見守り: 親御さんの生活状況を定期的に確認し、異変がないか確認しましょう。
• 金融機関との連携: 金融機関に、親御さんの状況を伝えておきましょう。
• 弁護士への相談: 不安な場合は、弁護士に相談し、アドバイスを受けましょう。

5. 預貯金を引き出す際の手続きと必要書類

預貯金を引き出す際の手続きは、金融機関によって異なりますが、一般的には以下の書類が必要となります。

• 本人確認書類: 運転免許証、健康保険証、パスポートなど
• 通帳と印鑑: 預貯金の種類によって、必要なものが異なります。
• 代理人の本人確認書類: 任意代理契約や成年後見制度を利用する場合
• 委任状: 親御さんが手続きを委任する場合
• 戸籍謄本: 親族関係を証明する場合
• 診断書: 認知症の診断書が必要な場合
• 成年後見に関する書類: 成年後見制度を利用する場合

事前に金融機関に確認し、必要な書類を準備しておきましょう。

6. 介護と仕事の両立を支援する制度

親の介護と仕事の両立は、多くの人が抱える課題です。国や自治体では、介護と仕事の両立を支援するための様々な制度を設けています。これらの制度を活用することで、負担を軽減し、安心して介護に取り組むことができます。

6-1. 介護休業制度

介護休業制度は、要介護状態の親族を介護するために、一定期間休業できる制度です。この制度を利用することで、介護に専念する時間を確保することができます。

• 対象者: 雇用保険に加入している労働者
• 休業期間: 対象家族1人につき、通算93日まで
• 給付金: 介護休業給付金が支給されます（給与の67%）

6-2. 介護休暇制度

介護休暇制度は、要介護状態の親族の介護や世話をするために、年次有給休暇とは別に取得できる休暇制度です。この制度を利用することで、急な用事や通院などに柔軟に対応することができます。

• 対象者: すべての労働者
• 休暇日数: 対象家族1人につき、年間5日（2人以上の場合は10日）
• 給与: 賃金は支払われませんが、有給休暇として扱われる場合もあります。

6-3. その他の支援制度

その他にも、以下のような支援制度があります。

• 介護保険サービス: 訪問介護、デイサービス、ショートステイなど、様々な介護保険サービスを利用できます。
• 地域包括支援センター: 介護に関する相談や、必要なサービスの手配を支援してくれます。
• 企業の育児・介護支援制度: 企業によっては、介護に関する相談窓口や、介護費用の一部を補助する制度などがあります。

7. 専門家への相談

親御さんの預貯金に関する手続きは、複雑で専門的な知識が必要となる場合があります。一人で悩まず、専門家に相談することをおすすめします。

7-1. 弁護士への相談

弁護士は、法的な問題について専門的なアドバイスをしてくれます。成年後見制度の手続きや、任意代理契約の作成など、法的側面からのサポートを受けることができます。

7-2. 司法書士への相談

司法書士は、登記や成年後見に関する手続きの専門家です。成年後見制度の申立てや、任意代理契約の作成など、手続きに関するサポートを受けることができます。

7-3. 行政書士への相談

行政書士は、官公署への書類作成や手続きの代行を専門としています。成年後見制度に関する書類作成や、その他手続きに関するサポートを受けることができます。

7-4. ケアマネージャーへの相談

ケアマネージャーは、介護に関する専門家です。介護保険サービスの利用に関する相談や、介護に関する様々なアドバイスを受けることができます。

専門家に相談することで、最適な解決策を見つけることができ、安心して手続きを進めることができます。

8. まとめ

認知症の親御さんの預貯金に関する手続きは、複雑で時間もかかる場合があります。しかし、適切な手続きを行うことで、親御さんの財産を守り、安心して介護を続けることができます。この記事で解説した内容を参考に、ご自身の状況に合った方法を選び、専門家にも相談しながら、手続きを進めてください。介護と仕事の両立は大変ですが、諦めずに、一つ一つ問題を解決していくことが大切です。

9. よくある質問（FAQ）

ここでは、読者の皆様から寄せられることの多い質問とその回答をまとめました。これらのFAQを通じて、より具体的な疑問を解消し、手続きへの理解を深めてください。

Q1: 親の預貯金を引き出すために、必ず成年後見制度を利用しなければならないのですか？

A1: いいえ、必ずしも成年後見制度を利用する必要はありません。親御さんの認知症の程度や、他の家族との関係性、財産の状況などによって、最適な方法は異なります。例えば、親御さんに判断能力が残っている場合は、委任状を作成したり、任意代理契約を結んだりすることも可能です。成年後見制度は、判断能力が完全に失われた場合に、財産管理を行うための制度です。

Q2: 任意代理契約と成年後見制度の違いは何ですか？

A2: 任意代理契約は、親御さんが判断能力のあるうちに、将来の財産管理を誰に任せるかを決めておく契約です。一方、成年後見制度は、親御さんの判断能力が低下した後、家庭裁判所が後見人を選任して財産管理を行う制度です。任意代理契約は、親御さんの意思を尊重し、柔軟な対応が可能ですが、親御さんに判断能力がなければ締結できません。成年後見制度は、親御さんの判断能力が低下した後でも利用できますが、手続きに時間がかかり、後見人の選任は家庭裁判所が行います。

Q3: 預貯金を引き出す際に、金融機関からどのような質問をされますか？

A3: 金融機関は、預貯金を引き出す理由や、親御さんの状況について質問することがあります。例えば、「なぜ預貯金を引き出すのか」「親御さんの現在の状況はどうか」「どのような用途で使用するのか」などです。これらの質問に対して、正直かつ具体的に答えることが重要です。また、親御さんの認知症の状況によっては、診断書や、成年後見制度に関する書類の提出を求められることもあります。

Q4: 認知症の親の預貯金を引き出す際に、家族間でトラブルになることはありますか？

A4: はい、家族間でトラブルになることは少なくありません。特に、預貯金の使い道や、親御さんの介護方針などについて、意見が対立することがあります。トラブルを避けるためには、事前に家族で話し合い、親御さんの意向を尊重することが大切です。また、専門家（弁護士や司法書士など）に相談し、中立的な立場でアドバイスを受けることも有効です。遺産分割に関するトラブルを避けるために、生前贈与や遺言書の作成を検討することも重要です。

Q5: 預貯金の手続き以外に、親の介護で困ったことは誰に相談すれば良いですか？

A5: 親の介護で困ったことは、様々な専門家に相談できます。

• 地域包括支援センター: 介護に関する相談や、必要なサービスの手配を支援してくれます。
• ケアマネージャー: 介護保険サービスの利用に関する相談や、介護に関する様々なアドバイスをしてくれます。
• 弁護士: 法的な問題について専門的なアドバイスをしてくれます。
• 社会福祉士: 介護保険制度や社会資源の利用に関する相談に乗ってくれます。

これらの専門家に相談することで、適切なサポートを受け、安心して介護に取り組むことができます。

10. 専門用語集

この記事で出てきた専門用語をわかりやすく解説します。

• 成年後見制度: 認知症などによって判断能力が低下した方の財産管理や身上監護を支援する制度。
• 任意後見契約: 本人が将来の判断能力の低下に備えて、あらかじめ後見人となる人を選んでおく契約。
• 法定後見: 判断能力が低下した方の財産管理や身上監護を、家庭裁判所が選任した後見人等が行う制度。
• 後見人: 成年後見制度において、本人の財産管理や身上監護を行う人。
• 保佐人: 成年後見制度において、本人の重要な行為について同意を与えたり、取り消したりする人。
• 補助人: 成年後見制度において、本人の特定の行為について同意を与えたり、代理したりする人。
• 介護保険サービス: 訪問介護、デイサービス、ショートステイなど、介護保険を利用して受けられるサービス。
• 地域包括支援センター: 高齢者の介護や福祉に関する相談を受け付ける窓口。
• ケアマネージャー: 介護保険サービスを利用するためのケアプランを作成する専門家。