介護職の夜勤におけるリスクと法的責任：警察への事情聴取と検死への対応

介護職員について 老健施設で入居している90歳代男性が夜亡くなったのですが、担当していた介護士が警察に事情聴取されたそうです。検死も家族希望だかするとのこと。家族は「昼間まで元気にしてたのに夜いきなり死ぬのはおかしい」という理由で警察に訴えてきたため、警察も現場を見に来た上での検死です。虐待はしてない、転倒してないみたいです。この場合訴えられることはあるのでしょうか？

介護職の皆様、特に夜勤勤務をされている方にとって、今回のケースは他人事ではないでしょう。高齢者の急死は、様々な要因が考えられるため、警察の事情聴取や検死といった事態に直面する可能性は決して低くありません。この記事では、介護職における夜勤中の高齢者急死に関するリスクと、法的責任について、具体的な事例を交えながら詳しく解説していきます。 特に、「訴えられる可能性」と、「日々の業務におけるリスク軽減策」に焦点を当て、安心して介護業務に従事できるよう、具体的なアドバイスを提供します。

1. 高齢者の急死と警察への事情聴取：何が問題となるのか？

高齢者の急死は、必ずしも医療ミスや介護ミスが原因とは限りません。しかし、ご家族の悲しみや怒り、そして「何かおかしい」という疑問は、警察への通報という行動につながることがあります。今回のケースのように、昼間元気だった高齢者が夜間に亡くなった場合、ご家族は「何かあったのではないか？」と疑念を抱き、警察に相談することがあります。警察は、事件性がないかを確認するために、現場検証や関係者への事情聴取を行うのが一般的です。

警察の事情聴取は、容疑者としてではなく、「事件の状況を把握するための証人」としての聴取であることが多いです。しかし、聴取の内容によっては、精神的な負担が大きくなる可能性があります。また、ご家族の訴えが「虐待」や「業務上過失致死」といった刑事事件につながる可能性も否定できません。そのため、冷静かつ正確に、事実を伝えることが非常に重要となります。

2. 訴えられる可能性：業務上過失致死罪と民事責任

今回のケースで、介護士が訴えられる可能性として考えられるのは、「業務上過失致死罪」です。これは、業務上の過失によって人を死亡させた場合に適用される罪です。しかし、業務上過失致死罪が成立するためには、以下の条件を満たす必要があります。

• 業務上の過失があったこと：業務上必要な注意義務を怠ったことが原因で死亡に至ったと認められる必要があります。単なる不注意ではなく、「相当な注意を払っていれば防げた」と判断されるレベルの過失である必要があります。
• 因果関係があったこと：介護士の過失と高齢者の死亡との間に、直接的な因果関係があることが証明されなければなりません。例えば、適切な処置を怠ったことが直接的な死因であると認められる必要があります。
• 死亡という結果が生じていること：これは当然ですが、高齢者が死亡しているという事実が確認されなければなりません。

今回のケースでは、「虐待はしてない、転倒してない」とのことですので、業務上の過失があったと判断される可能性は低いかもしれません。しかし、検死の結果や、介護記録の内容によっては、状況が変わる可能性もゼロではありません。例えば、記録の不備や、必要な処置を怠っていたなどの証拠があれば、過失があったと判断される可能性があります。

また、刑事責任だけでなく、民事責任を問われる可能性もあります。ご家族が、介護施設に対して損害賠償請求を行う可能性があります。これは、刑事裁判とは別に起こされる裁判で、慰謝料や葬儀費用などの請求がされる可能性があります。

3. リスク軽減のための具体的な対策：記録の重要性とチーム連携

介護職は、高齢者の命と健康を守る責任を負っています。そのため、日頃からリスクを軽減するための対策を講じる必要があります。最も重要なのは、正確で詳細な記録を残すことです。記録には、以下の内容を含めるべきです。

• バイタルサインの記録：体温、脈拍、呼吸数、血圧などを定期的に記録します。
• 食事や排泄の状況：食事の摂取量、排泄の回数などを記録します。
• 身体状態の変化：容態の変化、転倒などの事故、異常な行動などを記録します。
• 対応内容：行った対応、処置、医師への連絡などを記録します。
• 担当者の署名：記録した担当者の署名が必要です。

記録は、事件や事故が発生した場合に、自分の行為を客観的に証明する重要な証拠となります。曖昧な表現や、記録の不足は、かえって不利になる可能性があります。また、チーム連携も非常に重要です。何か異常を感じた場合は、すぐに同僚や上司に相談し、連携して対応することが大切です。一人で抱え込まず、チームとして対応することで、リスクを軽減することができます。

4. 専門家への相談：安心できるサポート体制

今回のケースのように、高齢者の急死に関わる事件や事故に巻き込まれた場合、一人で抱え込まず、弁護士や専門機関に相談することが重要です。弁護士は、法的リスクを評価し、適切な対応策をアドバイスしてくれます。また、専門機関では、心理的なサポートも受けられます。

5. 予防策：日々の業務における注意と研修

高齢者の急死を防ぐためには、日頃から細心の注意を払い、適切な介護を行うことが不可欠です。定期的な研修に参加し、最新の知識や技術を習得することも重要です。特に、心肺蘇生法やAEDの使用方法などの知識は、緊急時に非常に役立ちます。また、施設内での安全管理体制の整備や、スタッフ間の情報共有なども重要です。

さらに、高齢者の身体的・精神的な状態を常に把握し、変化に気づいたらすぐに対応することが重要です。些細な変化も見逃さず、記録に残すことで、問題発生時の対応がスムーズになります。また、ご家族とのコミュニケーションを密にすることで、高齢者の状態に関する情報を共有し、より適切なケアを提供することができます。

6. まとめ：冷静な対応と継続的な学習が重要

介護職は、高齢者の尊厳を守り、安全で快適な生活を支える重要な役割を担っています。高齢者の急死という事態に直面した場合、感情的に動揺せず、冷静に対応することが求められます。正確な記録を残し、チームと連携して対応することで、法的リスクを軽減し、ご家族への説明責任を果たすことができます。そして、継続的な学習と研修を通して、知識とスキルを向上させることで、より安全で質の高い介護を提供できるよう努めましょう。

この記事で紹介した内容は、一般的な情報であり、個々の状況によっては異なる対応が必要となる場合があります。具体的な対応に迷う場合は、必ず専門家にご相談ください。