90歳、鼻腔経管栄養の選択：介護の現場で私たちができること

この記事では、介護を受けている90歳の方の鼻腔経管栄養に関するご相談について、専門家の視点から具体的なアドバイスを提供します。ご本人、ご家族、介護者の皆様が、より良い選択をするための情報と、そのために必要な話し合いのポイントを解説します。

施設入所していた高齢者で、誤嚥性肺炎になり病院入院して治療中に食事が取れないので、鼻腔経管栄養になりました。肺炎が治ったあとに、嚥下機能の回復訓練を行ったのですが、本人の拒否や嚥下機能の衰えから、鼻腔経管栄養で別の施設へ移り、介護を受けている人が居ます。90歳という高齢ではありますが、このまま鼻腔経管栄養を続けていいのでしょうか？ 痰や咳込みが多く、鼻腔経管栄養より胃瘻のほうが本人や介護者の負担が少なくて済むと思われますし、今後、嚥下機能の回復のために、食事を経口摂取していただく訓練をするにも鼻腔経管栄養では難しいのではないしょうか。主治医にこの見解を聞くと、「介護者は胃瘻のほうが楽だよね」的なことを言ったみたいです。これは、どういう意味でしょうか？私の認識と主治医とは、大きな違いがあるようです。今後、家族や本人、施設の介護者との間でこの方の介護について、話会うのですが、この問題をどう取り上げるか迷っています。主治医の真意が知りたいです。胃瘻への変更ではなく、鼻腔経管栄養を続ける必要性が何かあるのでしょうか？補足として、肺炎は数週間で治り退院しているのに、そのあと3ヶ月間も鼻腔経管栄養を続ける事は一般的に普通でしょうか？問題ないんでしょうか？

はじめに：問題の本質を理解する

ご相談ありがとうございます。90歳というご高齢の方の介護において、鼻腔経管栄養と胃瘻の選択は、非常にデリケートな問題です。ご本人様のQOL（Quality of Life：生活の質）を最大限に尊重しつつ、介護者の負担も考慮に入れる必要があります。今回の記事では、この問題に対する多角的な視点と、具体的な解決策を提示します。まず、問題の本質を理解することから始めましょう。

1. 鼻腔経管栄養と胃瘻：それぞれのメリットとデメリット

鼻腔経管栄養と胃瘻は、どちらも栄養を直接体内に送り込む方法ですが、それぞれに異なる特徴があります。それぞれのメリットとデメリットを理解することで、より適切な選択が可能になります。

1-1. 鼻腔経管栄養

• メリット:
  • 比較的簡単に開始できる。
  • 一時的な栄養補給に適している。
  • 手術の必要がない。
• デメリット:
  • 長期間の使用には不向きで、感染のリスクがある。
  • 鼻や咽頭の違和感、不快感がある。
  • 誤嚥のリスクが完全にゼロになるわけではない。
  • 定期的なチューブ交換が必要。

1-2. 胃瘻

• メリット:
  • 長期間の栄養補給に適している。
  • 鼻腔経管栄養よりも感染のリスクが低い。
  • 見た目の違和感が少ない。
• デメリット:
  • 手術が必要。
  • 合併症のリスクがある。
  • 胃瘻からの逆流のリスクがある。
  • 創部のケアが必要。

2. 主治医の真意を読み解く

主治医が「介護者は胃瘻のほうが楽だよね」と言った背景には、いくつかの可能性があります。

• 介護者の負担軽減: 胃瘻は、鼻腔経管栄養よりも管理が容易で、介護者の負担を軽減できる場合があります。特に、痰の吸引やチューブの交換など、頻繁なケアが必要な場合は、その傾向が強くなります。
• 長期的な視点: 90歳という年齢を考慮すると、長期的な栄養管理が必要になる可能性が高く、胃瘻の方が適していると判断した可能性があります。
• 誤嚥性肺炎のリスク: 鼻腔経管栄養では、チューブの位置によっては誤嚥のリスクが残るため、そのリスクを減らすために胃瘻を推奨した可能性があります。

3. 鼻腔経管栄養を続ける必要性

肺炎が治癒し、嚥下機能回復訓練を行っても経口摂取が難しい場合、3ヶ月間も鼻腔経管栄養を続けることは、必ずしも異常ではありません。しかし、その期間が長くなればなるほど、胃瘻への切り替えも検討する必要があります。鼻腔経管栄養を続ける必要性がある場合は、以下の点が考慮されます。

• 嚥下機能の回復の可能性: 嚥下機能訓練を継続することで、経口摂取が可能になる見込みがある場合は、鼻腔経管栄養を継続する意義があります。
• 本人の意向: 本人が鼻腔経管栄養を希望する場合、本人の意思を尊重することも重要です。
• 家族の意向: 家族が胃瘻への変更を躊躇する場合、その理由を丁寧に聞き、話し合う必要があります。

4. 家族、本人、介護者との話し合いのポイント

この問題を解決するためには、関係者全員で話し合い、情報共有を行うことが不可欠です。話し合いの際には、以下の点を意識しましょう。

• 情報収集: 主治医から、現在の状況、今後の見通し、それぞれの選択肢のメリットとデメリットについて、詳しく説明を受けましょう。
• 本人の意思確認: 本人の意思を尊重し、可能な範囲で意思確認を行いましょう。
• 介護者の意見: 介護者の負担や困りごとを理解し、意見を聞きましょう。
• 選択肢の提示: 鼻腔経管栄養、胃瘻、その他（緩和ケアなど）の選択肢を提示し、それぞれのメリットとデメリットを説明しましょう。
• 合意形成: 関係者全員が納得できる結論を目指し、合意形成を図りましょう。

5. 嚥下機能回復のためのアプローチ

嚥下機能の回復を目指す場合、以下の点に注意してアプローチを行いましょう。

• 専門家への相談: 言語聴覚士や管理栄養士などの専門家と連携し、適切な嚥下訓練や食事形態の調整を行いましょう。
• 食事環境の整備: 食事の姿勢、食器、食事時間など、食事環境を整えることで、嚥下を助けることができます。
• 食形態の調整: 嚥下しやすいように、食事の硬さやとろみなどを調整しましょう。
• 口腔ケア: 口腔内の清潔を保ち、嚥下機能を高めるために、口腔ケアを徹底しましょう。

6. 専門家への相談を検討しましょう

今回のケースのように、医療的な判断と介護の現場での現実的な問題が複雑に絡み合う場合、専門家の意見を聞くことが重要です。医師、看護師、言語聴覚士、管理栄養士、ケアマネージャーなど、多職種連携を行い、最適なケアプランを立てることが求められます。また、倫理的な観点から、医療倫理の専門家や、高齢者ケアに詳しい弁護士に相談することも有効です。

7. 介護保険サービスの活用

介護保険サービスを積極的に活用することも重要です。訪問看護や訪問リハビリテーションを利用することで、専門的なケアを受けることができます。また、介護保険サービスを利用することで、介護者の負担を軽減することも可能です。

• 訪問看護: 専門の看護師が自宅を訪問し、医療的なケアを提供します。
• 訪問リハビリテーション: 理学療法士や作業療法士が自宅を訪問し、リハビリテーションを行います。
• デイサービス: 日中の間、施設に通い、食事や入浴、レクリエーションなどのサービスを受けられます。
• ショートステイ: 短期間、施設に入所し、介護サービスを受けられます。

8. 倫理的な視点

高齢者の介護においては、倫理的な視点も重要です。本人の尊厳を尊重し、自己決定を支援することが求められます。また、家族や介護者の負担も考慮し、バランスの取れたケアを提供することが重要です。

• 本人の意思尊重: 本人の意思を尊重し、可能な範囲で意思決定に参加してもらいましょう。
• 情報提供: 適切な情報を提供し、本人が納得して選択できるように支援しましょう。
• プライバシー保護: 個人情報やプライバシーを保護し、安心して生活できるように配慮しましょう。

9. まとめ：より良い選択のために

90歳の方の鼻腔経管栄養と胃瘻の選択は、非常に難しい問題ですが、関係者全員で話し合い、情報共有を行い、専門家の意見を聞くことで、より良い選択をすることができます。本人のQOLを最大限に尊重し、介護者の負担も考慮しながら、最適なケアプランを立てることが重要です。今回の記事が、その一助となれば幸いです。

10. 最後に：継続的なサポート

今回の問題は、一度解決すれば終わりではありません。状況は常に変化するため、定期的に見直しを行い、必要に応じてケアプランを修正していく必要があります。ご本人、ご家族、介護者の皆様が、安心して生活を送れるよう、継続的なサポート体制を整えることが重要です。

“`